ダウン症と新型コロナウイルスワクチン

大阪医科薬科大学 小児高次脳機能研究所 所長 玉井 浩
May 20 2021

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威は、既感染者あるいはワクチン接種者が一定割合にならなければ収束しないとされています。日本で2月からワクチンが導入され、医療関係者、高齢者、基礎疾患のある方が優先接種の対象とされています。現在は16歳以上の方に限られていますが、この基礎疾患の中に染色体異常が含まれていますので、ダウン症のある方も接種対象となります。
 そもそも当初は、高齢者は重症化リスクが高く、若い方や子どもは罹患しても軽症と言われていましたが、変異型では比較的若い方でも重症化していますので、心配されているところです。
 最近の論文1)によると、英国において2020年1月24日〜6月30日の期間、826万人の成人を対象に大規模コホート調査がありました。その中で4,053人のダウン症のある方のうち68人が亡くなられています。そのうち、COVID-19が原因で亡くなられた方は27人(約40%)、同時期にダウン症ではない方が41,685人亡くなられていて、そのうちCOVID-19が原因で亡くなられたのは、8,457人(約20%)でした。単純に計算すると、COVID-19による死亡率はダウン症のある方で約2倍となります。年齢、性別、肥満度、認知症の診断の有無、施設入所者かどうか、先天性心疾患の有無、そのほかの合併症や治療の有無など、様々な要因で補正すると、COVID-19に関連した入院リスクは4倍、死亡リスクは10倍と報告されました。しかし、COVID-19で亡くなられたダウン症のある人の数が少ないため、過大に評価されている可能性もあります。また、一般に知的障害のある人は、症状に気づくのが遅れ、重症化してから入院することも報告されており、死亡リスクの上昇に影響している可能性があります。さらに、感染爆発を起こした当時の英国の医療状況と現在の日本の状況を単純には比較できないこと、また、肥満者が重症化しやすいことも分かっていますが、外国人に比べて日本人のダウン症のある人の肥満の程度は軽いため、この数字を今の日本に単純に当てはめることはできないと考えられます。
 別の論文2)(T21RSというダウン症研究の専門組織と英国の調査を比較)ですが、2020年4月から10月まで1,046人のダウン症のある人(平均年齢は29歳)を対象にした研究があります。一般人と同様にCOVID-19の初期症状で最も多いのは、発熱・咳嗽・息切れです。小児では鼻汁と咽頭痛が多いようですが、20代では悪寒・腹痛・嘔気・筋肉痛・関節痛が、40代以上では全身倦怠感・意識障害が見られます。その調査では、40歳以上になると死亡するリスクが3倍になることが指摘されています。
 さらに、多くのダウン症研究専門家が参加するGlobal Down Syndrome Foundationでも同様に、40歳以上のダウン症のある人の重症化リスクは高いと指摘し、ワクチンを積極的に接種することを推奨しています3)。ダウン症のある小児については、どの報告も易感染性および重症化について記載はありません。
 数値は論文によって違っても、どの論文でも積極的なワクチン接種が推奨されていることが重要なポイントです。
 日本においてはCOVID-19に罹患したダウン症のある方はいますが、海外ほど多くはなく、また大規模調査がされていないためもあって重症化リスクについての報告はありません。しかし、乳幼児がRS感染症で重症化することは分かっていますので、同様に乳幼児では重症化する可能性があり、また気道の異常、肺胞・肺血管の低形成などのため肺炎・気管支炎になりやすい素因もあります。まず、家庭に持ち込まないように周囲の方が気をつけていただきたいです。
 ワクチンの副作用に関して、現在日本で接種されているファイザー社製ワクチンでは、接種15〜30分後に見られるアナフィラキシー(蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下など)以外に、接種翌日の発熱、倦怠感がみられていますが、米国ではダウン症のある方に特に副反応の頻度が高いという報告はなく、積極的な接種対象とされています。
 今後、変異型に対するワクチンの有効性の検証が進められると思いますが、詳細は主治医・かかりつけ医とご相談いただき、ワクチン接種についてご判断ください。また、基本的な感染対策を講じ、地域の情報(ホームページ等)を収集し、必要であれば予約についての支援を受けるようにしてください。